イーヴァイル:インサイド・ヒーロー

イーヴァイル: インサイド・ヒーロー

Mors Principium Est──死は始まりにすぎない。

アメリカを被覆する悪の軍勢。殺人容疑をかけられたヒーローは姿を消した。迫り来る死のカウントダウン。臆病な少年が奮い立つ。

あらすじ

ニューヨークの夜闇にうごめく影──ドクロの仮面を付けた禍々しい容姿。悪鬼のごとき英雄〈イーヴァイル〉の登場に人々は熱狂した。それに呼応するかのように、悪の軍勢が台頭する。その名を〈ブラック・ロータス〉システムに阻害されない真の自由を追求する、声なき声の集合体。(アノニマス・コミュニティ)

ヒーローは単身で悪と闘った。人々はその雄姿に心打たれた。そんな折、一人の軍人が殺害される。容疑者は、ニューヨークの英雄〈イーヴァイル〉だった。 まるで自らの罪を認めるかのようにヒーローは行方をくらませた。

軛を解かれた悪の軍団は、ますます勢力を拡大し、マンハッタン市民に〈宣言〉を発表した──家を捨て、マンハッタンを立ち去れと。摩天楼に恐慌がはしる。だが英雄はいっこうに現れない。ヒーローは本当に軍曹を殺したのか? 市民を見捨てたのか? 〈宣言〉の期日を目前に控えた今、ひとりの気弱な少年が立ち上がる。

登場人物

・ヴィンセント・デイヴィス
ニューヨーク・ハーレム地区に住む引きこもりがちな中学男子。ヒーロー〈イーヴァイル〉の熱狂的なファン。その熱意はすさまじく、イーヴァイルのファンサイト〈インサイド・ヒーロー〉を立ち上げるほど。

・ジョナサン・オブライエン
ヴィンセントの幼なじみ。アメフトで鍛え上げた頑強な肉体が自慢。

・クレア・リチャードソン
イーヴァイルによって殺害されたアイザック・リチャードソン元軍曹の娘。復讐を誓い、行方知れずのヒーローを探している。

・スレイヤー
〈ブラック・ロータス〉の首領。強化外骨格に身を包んだ謎の男。経歴・所在、そのほかの一切が不明。

・ヘレン・ブラッドリー
ニューヨーク市警26分署、巡査部長。

・テレンス・ニューマン
ニューヨーク・ヘラルド紙の記者。ヘレンとは中高の同級生。

・ギャレス・クーパー
ニューヨーク市警26分署、分署長。階級は警部。

・イーヴァイル
行方知れずのヒーロー。ドクロの仮面と二振りの日本刀がトレードマーク。

新聞記事より抜粋

【イーヴァイルは悪魔か? 英雄か?】

ニューヨーク・ヘラルド紙 朝刊 2019年 12月23日付

英雄(ヒーロー)は逃げ出した。正義の灯火は、今まさに潰えようとしている。
遡ること一年半、我らが友人〈イーヴァイル〉は、忽然と姿を消した。〈イーヴァイル〉の宿敵──その名を口にすることすら憚られる社会の敵──〈スレイヤー〉と死闘を繰り広げた『ブリッジウォーター襲撃事件』

あの日まで完全無欠で無敗のヒーローだった〈イーヴァイル〉は、瀕死の状態に追い込まれた。そしてその様子は、いち早く現場に駆けつけたテレビカメラを通して全米に配信された。
だが、ヒーローが姿を消したのはそれが理由ではなかった。

それから四ヶ月後の2018年5月23日、一人の退役軍人が殺害された。アメリカ陸軍元軍曹、アイザック・リチャードソン。ハーレム地区ウェスト137番通り(ストリート)に設置された監視カメラは、〈イーヴァイル〉が元軍曹を殺害する様子をはっきりと捉えていた。ニューヨークの英雄は、一夜にして殺人者となった。本紙を除く全米の新聞が”正義の仮面を被った悪魔だ”と彼を糾弾したのは読者諸賢のよく知るところである。

超人的な身体能力で悪人を次々となぎ倒す──決して殺してはいない──イーヴァイルは、いまや我が国の一大輸出産業となったヒーローコミックから抜け出してきたかのような、紛うかたなきヒーローだった。だが、先月〈スレイヤー〉がインターネット上で公開した〈宣言〉が、そんな幻想を打ち砕いたのだ。以下に、その原文を引用する。

マンハッタンに居を構える諸君らへ告ぐ。我々の名は〈ブラック・ロータス〉──システムに阻害されない真の自由を追求する、声なき声の集合体(アノニマス・コミュニティ)である。我々の目的は、アメリカに真の自由をもたらすことだ。その目的を実現するため、マンハッタンの住人たちへ命じる。我々に住処を明け渡し、マンハッタンからすみやかに退去せよ。これは嘆願ではない。諸君らに選択の余地は残されていない。この命令に背く者は、ドーソン君と同じ轍を踏むと覚悟せよ。期限は、今日から一ヶ月後の12月25日──来るクリスマスまでとする。諸君らの賢慮を期待する。

〈宣言〉で言及された『ドーソン君』とは、おそらく先月〈スレイヤー〉によって殺害されたニューヨーク市議会議員オスカー・ドーソン氏のことだと思われる。市庁舎(シティホール)前で〈スレイヤー〉によって首をもぎ取られた凄惨な光景は、いまだ記憶に新しい。

そして今日、〈宣言〉の期日は目前に迫っている。だが、〈イーヴァイル〉はいまだ姿を見せず、沈黙を守り続けている。

イーヴァイル、もしもまだ、あんたの心に正義が──それを貫く意志が遺っているのなら、我々に力を貸してほしい。公的権力が当てにならない以上、我々に残された一縷の希望は、あんただけなのだから。

テレンス・ニューマン

タイムライン

2015年
屋根の上を飛翔する”影”を捉えた動画がオンライン上で話題になる。
2016年
ニューヨークのヒーロー〈イーヴァイル〉が初めて衆目に姿を晒す。
2018年 1月10日
ニューヨーク沖合いの離島型刑務所『ブリッジウォーター』が〈スレイヤー〉によって襲撃される。
同年 5月23日
米陸軍 元軍曹 アイザック・リチャードソンが〈イーヴァイル〉とおぼしき人物に殺害される。
2019年 10月14日
ニューヨーク市議会議員が市庁舎前で〈スレイヤー〉に首をもぎ取られて殺害される。
2019年 11月25日
スレイヤーがオンライン上で〈宣言〉を発表。
2019年 12月25日
〈宣言〉の期限を迎える。
イーヴァイル インサイド・ヒーロー

表紙 / イラスト by くるせらー様

 

5月中にネット上で公開、それにともなって書籍の頒布を開始する予定です。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です