マルドゥック・アノニマス:1〜4巻まで読んだ

マルドゥック・アノニマス4

マルドゥック・スクランブル』に始まった”一人で勝手に冲方丁祭り
順番的には『スクランブル』→『ヴェロシティ』→『フラグメンツ』→『アノニマス』の順番が正当なのだけど、あまのじゃくな私は諸々の作品をすっ飛ばし、いきなり『アノニマス』を読み始めました。うん。”しちゃいけない”って言われると、どうしてもやりたくなる……そんなめんどくさいタイプです、私・ω・

それぞれの変化と成長に感無量

私の読書熱とSF熱に再び火をつけた『マルドゥック・スクランブル』
で、『アノニマス』はというと、これまた更なる衝撃を受けました。衝撃? なんかちょっと表現が生ぬるいな……爆撃と言い直したほうがいいかもしれない。いや、ホントに。マジで。

注意!
以下、盛大に、容赦なくネタバレを含むので未読の人は今すぐ回れ右するんだ。いいな、絶対にスクロールするんじゃないぞ

ウフコックをはじめとする『スクランブル』からの続投組。新たに台頭する巨悪の軍団《クインテット》。相変わらず謎の多い《シザーズ》。

いやぁ、もうね、感無量ですよ

艱難辛苦を乗り越えたバロットがどうなっているのかと思いきや、まさかのベル・ウィングと共に暮らし、あれよあれよという間に大学進学ですよ。『スクランブル』の冒頭では散々に打ちのめされ、絶望のどん底だったのに、なんとまぁ凜とした女性に成長したことか。すくすくと成長する親戚の子どもを見ているような、そんな温かい気持ちが湧いてくるのであります。

でもってイースター。『ヴェロシティ』では”おしゃべりイースター”とあだ名されていたあの男が、いまやクリストファーを凌ぐ辣腕ぶりを発揮し、エンハンサー達の束ね役として督戦しておるわけですよ。「いやぁ、人って変わるもんだなぁ」とか、不遜にも思っちゃう今日この頃。

で、ウフコック。そう、みんな大好き黄金のネズミ——万能道具存存在。ちっぽけな体躯からは想像もつかないような不屈の正義心を抱く、煮え切らないネズミ。頭でっかちで、そのじつ純粋な心を持った優しい紳士。あのウフコックが辿る遍歴。第一巻のあとがきの中で冲方さんがおっしゃっているように、これはダンテの『神曲』——気高き理想を抱く一匹の正義漢が煉獄を辿る話なのだ。

もっとも気になるのは、冲方さん自身が言った衝撃の言葉。「ウフコックは最後に死にます」みたいなことをさらっと書いていらっしゃる。そして有言実行とばかりに体調に異変が現れ始めるウフコック。かと思いきや、《クインテット》に潜入し、バジルのベルトナックルに変身して凶器にされ、ようやくハンターに肉薄したと思いきや、まさかの捕縛。第三巻になってようやく、第一巻の冒頭および『フラグメンツ』収録の『手紙』でなぜウフコックがガス室に居るのかが明かとなる。万事休す。死と直面し、穏やかな諦念とともにそれを受け容れようとするウフコック。そんなときに登場するのがバロット。

なんだこの神がかった展開はっ!

当時の私の心の叫びは以下のとおり。


もうね、ヤバかった。で、第四巻に入ったらバロットが無双状態。あれだけオフィスの面々が苦戦を強いられてたバジルを子どもをたしなめるかのごとく翻弄するわ、追い詰めるわ、圧倒するわ……やっぱバロットすげぇ……でもって、縦横無尽に跳び回る戦闘スタイルもより洗練され強化されてるし。ウフコックの変身もより精度を上げてるし。鬼に金棒。SAOのキリト君に両手剣。ジェームズ・ボンドにワルサーPPKとはまさにこのこと。

混乱と驚きのなか、バロットに連れられて施設を脱出しようとするウフコック。このときのウフコックの感情。懐かしさと共にこみ上げる安心感。驚異的な成長を遂げたバロットの能力に驚きながらも、そのときにこみ上げるのはやはり、彼女の成長を見守ってきた保護者としての、相棒としての歓喜だろう。あれだけツンケンしていたアビーが、バロットに「姐さん」って呼びかけたときのウフコックの反応。えぇ。おそらく多くの読者がウフコックと同じ感慨を抱いたことでしょう。「ホント成長したなぁ」と、感嘆のうちに微笑するわけですよ。

なんだこの神がかった展開はっ!

目くるめく戦闘シーンと、そこにいたるまでの回想シーンが交互に展開し、なんとも気になるところで5巻目に突入。いやぁ、早く続きが読みたい! で、そんな一日千秋の思いで待ち焦がれた最新刊、『マルドゥック・アノニマス5』は5月21日発売。こんなに面白いならSFマガジン買ってりゃよかった……

惹きつける悪役:ハンター

マルドゥック・アノニマス3

『スクランブル』に負けず劣らず面白い『アノニマス』
事件が展開し、《クインテット》がマルドゥックシティの暗黒街を手中に収めていくのが1巻~3巻。わんさか出てくるエンハンサー。互いの利益を巡って衝突するマフィアたち。そんな悪人どもを手なずけ、馴化し、取り込んで共闘するのが《ハンター》という男である。この怜悧な伊達男、なかなかに魅力的な人物なのだ。

劇中では相手に針をぶっ刺すことで《均一化:イコライズ》しているけど、思わず読んでるこちら側もイコライズされてしまいそうになる。あとで何かの記事で読んだところ、「感情移入できる悪役を描いてみようと思い、ハンターという男ができあがった」らしい。1巻のあとがきによれば、どうやら当初は《ハンター》というキャラクターはここまで活躍する予定ではなかったのだとか。キャラクターが勝手に動くというやつなんだろうか。クリエイターの人がよく口にするあの言葉。というか、もしハンターがここまでの影響力を持っていなかったらどういう展開になっていたのか、それも気になる……

魅力的な悪役といってまず思い浮かぶのは『ダークナイト』のジョーカー。復讐や社会正義、はたまた主義主張といったものの一切を持たぬ純粋な悪——とくだん理由があるわけではない、ただ楽しいから悪事を働く。シンプルで混じり気のない純然たる狂気。その純粋さにおいて、ヒース・レジャー演じるジョーカーは斬新だった。底抜けにぶっ飛んでいて混沌としているのに、どこか惹かれてしまう。

もちろん、夭折したオスカー俳優ヒース・レジャーの怪演もあるのだけど、それを考慮してもジョーカーというキャラクターには抗しがたい魅力がある。それはおそらく純粋な狂気だ。子どものようなひたむきさで狂気の果てへと突っ走る、その潔さ。どこか清々しささえ感じるほどの狂気に、観客は自らの原初的な欲望を見いだすのではないか。かつて大衆の願望をあまさず体現した探偵映画の主人公が、いまだに根強い人気を誇るのと同じように。

純粋な狂気がチャームポイントだったジョーカー。では同じくらい魅力的な悪役《ハンター》はどうか。

《ハンター》は人々を教化・感化させて仲間に引き込む。自らが先頭に立って陣頭指揮を執り、あらゆる困苦を耐える忍耐力を持ち、それでいて明敏な頭脳も持っている。そう、一見すると《ハンター》は紳士なのだ。行き過ぎない、一線を越えない自制心を持った気品のある悪党。それがハンターという男である。話せばわかる。そんな可能性を感じさせる人物。たしかにどうしようもなく悪い奴なんだけれど、最悪の状況になればビジネスライクに交渉すれば筋は通してくれそう。そんなふうに思える人物。

この落ち着き払った穏やかさが逆に怖い……でもって、さらに恐ろしいのは、これだけ篤実の士みたく振る舞っていながら、その目的はやはり悪党のそれだという点である。本当のマフィアというのは温厚そうな素振りを見せて懐に忍び込み、相手が油断した隙を狙って殺す――『ゴッドファーザー』のコメンタリーでコッポラ監督が語ったマフィアの実態、まさにそのもの。

いやぁ。やってることはアレなんだけどなぁ。でも、そこまでわかっていながらも、なかなか魅力的なんだよなぁ、ハンター。敵意を自分に向けさせて下水道で逃亡生活送るシーン。あそこで私はハンターが好きになりました。はい。現場からは以上です。

4巻から5巻へ

1巻から3巻にかけて、次第にその勢力を拡大し、マルドゥックシティを着実に浸食していく《クインテット》

最初こそ小さな犯罪グループにすぎなかった彼らは、次々と悪党どもをイコライズし、その勢力圏を広げていく。その情景を、読者である私たちはウフコックの視点から追体験することになる。たった一人の潜入捜査。その間、ウフコックは傍観者に徹することを要求される。どれだけ義憤に駆られても、ぐっと堪える。人一倍繊細なウフコックにとって、それがどれだけの心痛をもたらすか。想像しただけでも胸が塞がる。潜入し、郵便物に変身してオフィスで報告、そしてまたすぐに潜入へと戻る。その繰り返し。唯一の救いは、時おり訪れるバロットとの逢瀬だけ。まさにウフコックにとっては試練である。

オフィスに帰ってからブルーとイースターに向かって小さな手をぶんぶん振り回して事態の深刻さを訴えるウフコック。読んでいて途中で思わず叫びそうになった。「もう止めて、ウフコックのライフはとっくにry」

次第に疲弊し擦り切れていくウフコック。完全に憔悴しきったとき、ハンターに捕縛され、そして自らガス室へと赴く。じつに3巻分をかけてじっくりと痛めつけられたウフコック。その苦しみがあったからこそ、3巻のラストでバロットが救出にやってきたとき、あの特大級の感動が待っているのだ。4巻目でようやく今までの労苦が報われ、バロットの成長ぶりに目を見張り、希望が潰えたかに思えた勢力図が攻勢に転じ始めた。そして、待望の第5巻。かつてないほどの期待を胸に、発売までの一ヶ月を待とうと思う。

参考 冲方丁 ハヤカワオンラインハヤカワオンライン

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